我が家の夏は、なんだかんだでドタバタと過ぎていく。
長女ちゃんと次女ちゃんがそろえば、元気の渦が巻き起こるのは当然のこと。
そしてこの夏、ひとつだけ、ずっと心のどこかに引っかかっていた「やり残し」があった。
それは――
ばあばが春に作ってくれた、手作りの甚平を姉妹で一緒に着て、お祭りに行くこと。
何度かチャンスはあった。
でもそのたびに、どちらかが風邪をひいてしまって、延期に次ぐ延期。
それが、ついにこの秋の入り口で叶ったんだ。
今日はその日の話を、ちょっと特別な気持ちで書き残しておきたい。
ばあばの愛が縫い込まれた、あの甚平
ばあば(おとーちゃんの母)がミシンを出して、何日もかけて縫ってくれた姉妹お揃いの甚平。
ピンクと白を基調にした優しい色合いで、夏らしい花火柄。
長女ちゃんの分はポケット付き、次女ちゃんのは柔らかいゴムで着せやすく。
細かいところまで愛が詰まっていた。
「ふたりがこれを着て並んだら、絶対かわいいよ」
そう言って、ばあばが笑ったのが春のことだった。
おとーちゃんも、おかーちゃんも、あの日のことをずっと覚えていた。
夏祭り、花火大会、市民祭り。
イベントはあったけど、長女ちゃんが熱を出したり、次女ちゃんの鼻水が止まらなかったり。
どれも大事を取って見送り続けた。
だけど――
9月に入って少し涼しくなった頃、おとーちゃんの地元で開催される秋祭りの知らせが届いた。
場所は、幼い頃によく走り回った神社の境内。
おとーちゃんが育った場所で、家族みんなでお祭りを楽しめるチャンスがやってきたんだ。
いざ、地元の秋祭りへ
当日、奇跡的にふたりとも絶好調。
長女ちゃんは朝からウキウキして、準備の段階でテンション最高潮。
「おそろい着るの!?次女ちゃんと!?やったー!」
と叫びながら、ばあばの甚平を大事そうに抱きしめていた。
次女ちゃんも、服を着せ替えてる間じゅうニコニコで、腕をバタバタさせて大興奮。
ふたり並んだ姿を見た瞬間、おかーちゃん
「かわいすぎる……」
と涙目。
おとーちゃんはというと、鼻の奥がツンとして、なぜか姿勢を正してしまった。
いざ出発。
屋台の灯りが揺れる中、金魚すくいに焼きそば、綿あめ、かき氷、くじびき……
長女ちゃんは何を見ても
「これやりたい!」
の連発。
次女ちゃんはベビーカーの中から目をぱちくりさせて、笑ったり、指さしたり、手をぱちぱちさせたり。
時々、長女ちゃんがしゃがんで
「次女ちゃん、見ててね〜」
と得意げにお面を見せたりもして、まるでちっちゃな姉妹ドラマを見ているようだった。
ばあばの甚平がつないだ、家族の時間
ばあばにも写メで送った。
甚平を着て並んだ姉妹の写真、屋台の前でピースしてる長女ちゃん、ベビーカーで笑う次女ちゃん。
すぐに返ってきたLINEには、
「やっと着てくれたんだね〜!ふたりともかわいいねえ!」
のメッセージと、絵文字いっぱいのハートが添えられていた。
その言葉を読んで、ようやくおとーちゃんも
「あぁ、これでよかった」
と思えた。
ずっと楽しみにしていた一枚の絵が、やっと完成したような感覚だった。
最後まで走り抜けた長女と、夢の中へ落ちた次女
お祭りも後半になると、次女ちゃんは抱っこの中でぐっすり。
甚平の袖から出ているふわふわの腕を、おとーちゃんの腕に絡めたまま、すやすやと眠っていた。
寝顔はまるで、夢の中でもお祭りを楽しんでるかのようだった。
一方の長女ちゃんはというと、最後まで元気いっぱい。
「まだ帰りたくない〜!」「あれも食べたい〜!」
と叫びつつ、境内をぐるぐる駆け回っていた。
その姿を見ながら、おとーちゃんは心の中でひとつ深呼吸。
こういう日を、あと何回見られるだろうか。
そしてこの先、何年経っても、きっと思い出すんだろうな。
お揃いの甚平で並んだ、ふたりの後ろ姿を。
ずっと忘れない秋の夜
今年の夏は、できなかったことも多かったけれど、最後に大きな花丸がついた気がする。
ばあばが作ってくれた甚平を、ふたりで着られたこと。
それだけで、心の奥にぽっと明かりが灯るような、そんな時間だった。
そしてまた来年。
きっともっと大きくなったふたりが、ばあばの甚平を着て笑ってくれることを願っている。
「また来ような」
と、長女ちゃんと指切りした夜。
次女ちゃんの温もりを抱いて帰る帰り道。
家族で過ごした、この静かな感動を、ずっと大事にしていきたいと思う。
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