おとーちゃんには、長年の悩みがありました。
それは、髪。
うねりがちな猫っ毛系の癖っ毛。
セットしても思うように決まらないし、湿気がある日は朝からため息。
そんな髪と付き合って三十余年、ようやく最近、心から信頼できる美容師さんに出会えたのです。
癖っ毛との格闘の日々
おとーちゃんの髪質は、なかなかの曲者です。
乾燥するとパサつき、湿気があると膨らむ。
まっすぐ伸びることを拒否するかのように、気ままにうねるこの髪。
学生時代から「どうにかかっこよく見せたい」と思いながらも、なかなか理想の髪型には近づけませんでした。
美容室を転々としたのも、そんな髪へのこだわりからでした。
「ここならいけるかも」
「やっぱり違ったかも」
そんな思いを胸に、何度も鏡の前で首をかしげながら帰路についたものでした。
運命の出会い、美容室の扉の向こうに
数年前、ふとしたきっかけで知った美容室。
そこに、運命の美容師さんがいました。
初めてのカウンセリングで、おとーちゃんの髪を触りながら彼は言いました。
「これは難しい髪質ですね。でも、大丈夫ですよ」
そして、ハサミを入れること数十分。
鏡の中に映った自分を見て、びっくりしました。
「……ちゃんとまとまってる!」
カットも、ドライの仕方も、ワックスのつけ方も。
すべてが理にかなっていて、自分の髪がまるで違うもののように思えたのです。
「これは、もうこの人に任せるしかないな」
おとーちゃんの中で、美容室ジプシー生活は終わりを告げたのでした。
出世街道まっしぐら、そして指名料の壁
ただ、腕のいい人はやっぱり出世するものです。
「○○さん、主任になったんですね」
「いえ、今は副店長になりまして」
「えっ、店長に……!?」
通うたびに役職が増えていく。
それは嬉しくもあり、どこか少しさみしくもあり。
そしてそれにともない、じわじわと上がっていく指名料。
最初は500円だったのが、気がつけば1000円、1500円と階段をのぼるように。
お会計のときに、おとーちゃんのお財布もほんのり重くなっていきます。
「出世してるんだなあ」
「いや、すごいなあ」
それでも、やっぱりこの人じゃないと
とはいえ、髪型って、おとーちゃんにとっては心の一部みたいなものです。
朝、鏡の前でうまくセットが決まると、その日一日がちょっとだけ前向きになる。
仕事も育児も、なんだかやる気が湧いてくるのです。
「おかーちゃん、今日ちょっと髪型いい感じじゃない?」
「うん、いつもよりキマってるかも」
そんな会話があると、それだけで幸せな気持ちになります。
だからこそ、少し指名料が上がったって、やっぱりこの美容師さんにお願いしたいのです。
これからも、おとーちゃんの髪の悩みを共有してくれる、心強い味方でいてほしいと思います。
「またお願いしますね」
と毎回言えることが、実はとてもありがたいことなのだと、最近しみじみ思うのです。
小さな贅沢、大きな安心
美容室の予約を入れるたび、ふと考えます。
「今回はいくらかな」
「でもまあ、あの人にお願いするなら仕方ないよなあ」
癖っ毛と上手につきあっていくには、技術だけでなく信頼も必要です。
人生において、「この人に任せておけば大丈夫」と思える相手がいること。
それって、けっこう大きな安心なんじゃないでしょうか。
髪型ひとつで気持ちが変わる。
だからこれからも、おとーちゃんは出世美容師さんに、心からの「よろしくお願いします」を伝え続けていこうと思います。
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